家の近所を歩くとき、僕は少しだけ背筋が伸びます。自分がニートであることを悟られないように、「これは正当な外出です」という顔をして、堂々と歩くんです。
そんな自意識が、いつも少しだけ姿勢を正します。
何もない田舎の住宅街で、平日の昼間に歩いている30代はほとんどいません。みんな朝から車に乗って仕事に出かけます。もし知り合いに見られたら、「◯◯さん家の◯◯くん、平日の昼間からウロウロして何してるの?」なんて噂されるかもしれません。
考えすぎだとは思うけれど、つい警戒してしまいます。
だからこそ、僕はいつも帽子を深くかぶり、伊達メガネをかけ、姿勢を正し、“たまたま平日休みで近所を歩いている人” に擬態するのです。
自分でも笑ってしまうほど慎重です。
先日、平日の14時ごろ、最寄りの駅から家までの道を歩いていました。前には、小学校高学年と思われる女の子がひとり、すたすたと歩いていました。たまたま同じ方向だったので、僕はしばらくその子の後ろを歩くことになりました。
距離を保ちながら、ゆっくり歩きました。
角を曲がったとき、女の子がパッと振り返りました。「なんだろう?」と思っていると、また振り返る。その後も何度も振り返る。
明らかに落ち着きのない様子でした。
「後ろから友達でも来るのかな?」と思っていましたが、しばらくして察しました。——僕のことを警戒しているのだと。
そこでようやく事情を理解しました。
その日の僕の服装は、黒のTシャツに黒の長ズボン、黒の帽子、黒のスニーカー。肩には黒のトートバッグ。全身、ほぼ真っ黒。
自分で振り返っても、だいぶ怪しい格好です。
そこに、平日の昼間、田舎の住宅街を歩くおじさんです。どう考えても怪しい。しかも、小学生の後ろを(偶然)歩いている。
誤解されても仕方がありません。
女の子にしてみれば、普通に怖かったと思います。ニート歴14年、38歳。ただ歩いているだけで、子どもから警戒される“完全に不審者”になってしまいました。
もはや笑うしかありません。
僕は歩くのが好きです。歩きながら考えごとをしたり、Podcastを聴いたり、景色を眺めたりするのが好きです。
本当はただの散歩好きなんです。
でも、身近な場所ほど歩きにくくなりました。「誰かに見られるかもしれない」という自意識で、近所を歩くのが少しだけ怖くなったのです。
気にしすぎだとは思うのですが。
だから僕は、これからも帽子を深くかぶり、伊達メガネをかけ、背筋を伸ばして擬態しながら歩くでしょう。
今日も、明日も、きっと同じように。
この街で誰よりも人の目を気にしながら、平日の昼間を歩く男——。
あ、今日は少しだけ、明るい服を着て歩きました。